朝6時、神奈川県横浜市・金沢文庫駅。
まだ少し肌寒い春の朝、リュックを背負って私は改札を通った。
京急本線に揺られ、羽田空港へ向かう。
車内では通勤ラッシュが始まりかけていて、スーツ姿の人々が静かにスマホを眺めていた。
私の荷物の多さに少し視線を感じながらも、窓の外に流れる景色に心はすでにアメリカへと向かっていた。
羽田空港からは、成田経由でデトロイト・メトロポリタン空港行きのフライトへ。
国際線のゲートで、偶然にも隣に並んだ女性が、ミシガン州アナーバーに帰るところだった。
「初めてのアメリカ?」と流暢な英語で聞かれ、「ええ、サギノーという町に行くんです」と答えると、彼女は「それならDetroitからバスね。雪が残ってるかもよ」と笑った。
機内では鶏の照り焼きとパン、そして最後にハーゲンダッツのアイスクリームが出た。
食後には映画『ポリスアカデミー』を見ながらうとうとした。
デトロイト空港に降り立ったのは現地時間の午前9時。入国審査では「なぜサギノーへ?」と聞かれ、「I’m visiting a church. Miracle Faith Temple」と答えると、笑顔で「God bless you.」と言われたのが印象的だった。
その後、グレイハウンドバスでサギノーへ。途中の休憩所でホットドッグを買い、ベンチで話しかけてきた男性が「サギノーは静かだけど、信仰の深い町だよ」と語ってくれた。
彼の祖母がかつてMiracle Faith Templeに通っていたそうで、「あそこは歌が本当にいい。心に響くよ」と言っていた。
サギノーのバスターミナルからタクシーに乗ると、運転手の女性が「あの教会は昔からあるわよ。時々音楽が外まで聞こえるの」と話してくれた。
町はどこか懐かしさのある静けさで、アメリカというより“人の温度”を感じた。
教会の前に着いたのは夕方近く。赤レンガと白い窓枠のMiracle Faith Templeが、夕日を浴びて輝いていた。ドアを開けると、誰かがピアノでゴスペルを弾いていて、言葉では言い表せない安心感に包まれた。
その夜の礼拝では、地元の人々に混じって歌を歌い、静かに祈った。「日本から来たの?」と話しかけてくれた年配の女性は、自分の孫が横浜に留学していると言い、「あなたが来てくれてうれしいわ」と手を握ってくれた。
心の中にあったわずかな不安や旅の疲れが、そっと癒されていくのを感じた。
金沢文庫から始まった旅は、思いがけない出会いと優しさに満ちたものだった。言葉も文化も違う国で、ただ「祈り」という共通の心が、人と人を繋いでくれたのだ。
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